Wir sind die Roboter. Wir sind auf Alles programmiert, Und was du willst wird ausgefuehrt.

when I am seventeen.

金沢

 このあたりから金沢へ行くのなら、あまり分厚い本を用意する必要はない。京都駅から特急に乗ると、二時間ほどで着いてしまう。右手に琵琶湖が見えたと思うとすぐに福井の田園を走っている。旅情というようなものはない。鈍行を乗りついで東京をめざしたときは、こんなに苦労して行くのだから、きっとすばらしいものが見られると期待したものだが。金沢駅に着いても、ほとんど人気がない。日本海側のおおきな駅はいつもこうだ。つくりも似たようなものである。かといって太平洋側の駅は煩雑なものばかりだ。
 人気がないことをのぞけば、駅前は大阪の心斎橋に似ている。駅からいくらも歩かないうちに近江町市場に入る。海鮮が売りらしく、地元のひとでたいへん賑わっている。京都の錦市場に似た感じで、アーケードの屋根が陽のひかりを和らげている。そのまま市場を抜けるとすぐ金沢城公園に入る。城というくらいだから立派なものを想像していたが、だだっ広い芝生があるばかりだった。どうやら跡地らしい。残っていたのは巨大な門と長屋くらいのものだった。
公園に隣接して、兼六園というおおきな庭園がある。霞ヶ池と松の散歩道であそんだ。池の鯉にしきりに話しかけるご婦人や、みやげ物の売り子が美しかった。内橋亭という、障子から池をのぞむ茶店で昼食をとる。蕎麦といっしょに、じぶ煮というめずらしい料理が出た。白い濁った餡のなかに鶏肉や人参が浮かんでいる。食べてみると、醤油の味と麹のかおりがした。薬味のわさびをのせると、ぐずぐずした味の輪郭が引き締まり、よいところがわかった。食後、茶を飲んで一服した。
浅野川大橋をわたると、ひがし茶屋町というところに出た。いくつかの茶店と、金箔をあしらった品を売る店がある。ある店などは壁いちめんに金箔を貼っていた。やりすぎではないかと思ったが、金箔づくりに適した地であるから金沢なのだということがしだいに知れてきた。茶店で珈琲を飲んだ。たいへん繁盛していた。
浅野川のそばを上流にむかってすすむと、茶屋町のおわりにちいさな庭園があった。主計町緑水苑というらしい。みごとな桜の樹があったが、季節はずれで花は咲いていなかった。夕方にさしかかっていたので、充分に美しかった。そこを離れてあてもなく歩いてみた。住宅街のようなところだったが、おおきな家ばかりで、みな立派な庭を擁していた。
ふと見ると、金沢蓄音機美術館、というちいさな看板が出ている。急ぎ足でかけつけると、円筒式の蓄音機からレコードプレイヤーまで、さまざまな音楽の機械がそろっている。折よくレコード聞き比べという催しがあったので、参加した。おなじ機械で、紙、木、鉄のホーンと取りかえて聞き比べた。聴衆はほかに五人ほどしかいなかったが、もっと沢山でもおかしくないと思った。展示物も百はあった。いくつもあるうちから、これはとくにいい出来だと思い、すぐそばの注意書きを見ると、「模造品。ロゴをよく見るとVictor(ヴィクター)ではなくVictol(ヴィクトル?)と書かれている」とある。贋作の歴史はじつに深い。
食事を選びたかったのと、金が覚束ないのとで、ホテルの素泊まりを選んだ。休憩をとってから駅前に戻り、近江町市場にある店で寿司を食べた。海が近いので、魚介の美味さは言うまでもない。酒もすこしいいのを奮発して呑んだ。ほろ酔いでいい機嫌になり、もうすこし呑みたいので、灯りのまぶしいほうへ歩いた。しばらくして繁華街らしき場所に出たのだが、人気がない。ギネス・ビールの看板をかかげた店を見つけたので、扉を引いてみるが、なんと鍵がかかっている。土曜の夜だというのに。金沢の人間はみな早寝らしく、呑めるところを求めて歩きまわった。けっきょく故郷でも見慣れたチェーン店に入ったが、客はひとりもおらず、店員は手持ちぶさたにしていた。なんだか寂しい気持ちになりながら、三杯ほど呑んでホテルに帰った。
翌朝チェックアウトをすませると、みやげ物をもとめて近江町市場へ行った。これという品もなかったので、何も買わず、海鮮どんぶりを出す店で昼食をとった。できれば温泉街にでも行ってもう一泊したかったが、いつのまにか散財していたらしく、懐は軽かった。京都が恋しくもなっていたので、見切りをつけて昼過ぎには特急に乗った。

帰ってから、あるバーの店主と話す機会があった。若い店主で、金沢の出だという。――いいところやね、人気がなくてすこし寂しいけれど、と言うと、店主は苦笑した。それからこう言った。――寂しいのだけが玉に瑕ですね。帰る予定はないのと尋ねると、しばらく逡巡してから、――ここがうまくいって、落ち着いたら、帰ってみようと思います、と言った。そういうものか。
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RollStone / 藤田祥平

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